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概要

ワークルールの掟 vol2

私は春から社会人として働き始める。しかし、正直言うと自分が働いている姿を想像することができない。しっかりと仕事をこなすことができるのか、不器用な性格だし、同じミスを何度も繰り返してしまって周囲の人に迷惑をかけてしまわないか……など、ネガティブなことばかり考えてしまう。でもそんなネガティブだらけの中にでも、楽しみなこともある。私には高校の頃からずっと帰国子女を支援する仕事に携わりたいという夢がある。それには私のバックグラウンドが大きく影響している。私は中学二年から高校一年までの三年間を父親の仕事の都合によりベルギーで過ごした。ベルギーではインターナショナルスクールに通っていたので、その間は日本の教育を受けていない。しかし、元々父の赴任は三年間と決まっていたので私は高校一年の一月という実に中途半端な時期に日本に帰国した。帰国に合わせて高校を探さなければいけなかったのだが、地元の静岡県には帰国子女を受け入れてくれる高校がほとんどなかった。編入試験を受けさせて欲しいと連絡をしても返信がこなかったり、帰国子女受験でも一般の生徒と同じ試験内容だと言われたり、受験するまでに乗り越えなければいけない壁がいくつもあった。両親は色んな高校と連絡をとってくれていたし、編入試験に向けて家庭教師や学校の先生には放課後や休日に時間を割いてもらった。幸い私は受験できる英語科のある高校を見つけることができたが、編入後もどこか自分は後から入ってきた余所者感があり、みんなとの間に壁や孤独を感じた時もあった。そんな悩みをすぐに打ち明けられる友人も近くにいないし、ベルギーの友達と話をするにも時差があって簡単にはできない。自分の中にモヤモヤが溜まっていった。その頃から、こんな思いをする私みたいな人を一人でも減らしたいと考えるようになった。どうして地方は帰国子女を受け入れる環境が整っていないのか。帰国子女と学校の間を取り持ってくれる人がいたら学校側も帰国子女側も相談することができる。何より自分の経験を活かすことができると思った。私は世間が想像するような「エリートな帰国子女」ではなく「落ちこぼれ帰国子女」だ。現地の学校での悩みや失敗、帰国後の葛藤や辛い経験、それら全てはアドバイスと言ったら偉そうだけど、かつての私と同じように悩んでいる人に贈ることができる。就職活動中に何度も働くことの必要性を考えた。正直なところ「大学を卒業したら働くのが当たり前だから」という答えしか思いつかない。でも、二十二年間いろんな場面で培ってきた物、誰かから得た物や経験を実践する場面なのかもしれない。働くというのは、今までの自分の経験を誰かに贈ることなのかなと思う。私は春から教育関係の会社で働き始める。帰国子女の進学支援は業務内容にはない。しかし、どんな会社も自分のやりたいことはきちんとした手筈を踏めば提案できるものだ。自分が本当にやりたい職業に就ける人はほんの一握りだと思うし、自分の仕事が本当にやりたいことかは正直わからない。少し勘違いしている部分もあるかもしれない。そう思うとなんだか不安になるけど、私は高校時代からの夢を少しずつでもいいから現実的なものに、形にしていきたい。「こんなはずじゃなかった」ではなく、「こんな仕事もできるんだ」と前向きに捉えたい。将来自分のような子供を救える日が来ると信じて、働き始めてからも夢を忘れない社会人になりたい。山口奈那子(常葉大学外国語学部4年)かつての私へエッセイ|働く私のワークの掟28